本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

製鉄天使/桜庭一樹

あらすじ

辺境の地、東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレディース“製鉄天使”の初代総長として、中国地方全土の制圧に乗り出す―あたしら暴走女愚連隊は、走ることでしか命の花、燃やせねぇ!中国地方にその名を轟かせた伝説の少女の、唖然呆然の一代記。里程標的傑作『赤朽葉家の伝説』から三年、遂に全貌を現した仰天の快作。一九八×年、灼熱の魂が駆け抜ける。

名作赤朽葉一族の伝説において、中国地方を制覇した伝説のレディース製鉄天使のヘッド赤朽葉毛鞠のエピソードを抜き出し、赤緑豆小豆がいかにして最強のレディースとなったかを痛快に描いている。

製鉄を業としてきた一家の娘で鉄を自由に操れる異能を持つ小豆はドブス集団エドワード族と抗争になり最初は袋だたきにされるが、やがて仲間を得てエドワード族をつぶし、レディースとして成り上がっていく。80年代の不良物語は何とも楽しく、中学デビューの小豆にとって青春は永遠に近い長さなのだが、いつまでも「夢見る不良じゃいられない」に気づくあたりがほろ苦い。

最後にちょっとした落ちがあったりして確かに面白かったが、なぜ「赤朽葉家」からスピンオフさせる必要があったかは疑問。或いは茅田砂胡の「王女グリンダ」と「デルフィニア戦記」の関係のように、本作の方が先で、それをふくらませたのが赤朽葉家であったかなとも思うが。