本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

宇宙でいちばんあかるい屋根/野中ともそ 

本好きのためのSNS本カフェhttp://heartgraffiti.sns.fc2.com/の読書会の課題図書で知ったYA小説である。

中学二年生のつばめは、母親は義母ながら幸せな家庭があり、両親共に愛しているが、幸福を演じているような窮屈さを感じ、学校生活やほのかな恋愛にも漠然とした居心地の悪さを持ちながら暮らしている。ある日、書道教室ビルの屋上で不思議な老女と出会ったつばめは、一夏を通して成長していくのだった。

ホームレスと思しき老女ホシノトヨ(星ばあ)は、毒舌で傲慢で意地悪だが、潔く背筋を伸ばして生きている風があり、それがつばめを魅了し、嫌々ながら星ばあとの交流に引き込まれていく。

近所の幼なじみの大学生透くんを好きなつばめだが、透くんの姉いずみちゃん(つばめには慈愛の笑みを注ぐお姉ちゃんだ)がダメ男に引っかかり、そのトラブルから亨くんが大けがをしてしまう。なかなか見舞いに行けないつばめに、星ばあがはっぱをかけて病院へ連れて行くが、様々なことに尻込みをするつばめに対し、この調子で(わがままな)説教をし続ける星ばあが痛快だ。

星ばあは離ればなれになった孫を捜していて、その経緯と共に、ついに星ばあの正体も知れるエンディングがなかなか切ない。全体にユーモラスで含蓄に富み、中学生の行き場のないもやもや感を上手く描いた傑作小説だと思う。読書会で採り上げられなければ読むことはなかっただろうなぁ。

気に入った星ばあの台詞
「結婚つうのはね。食事のさいちゅう、腹こわした相手が便所にかけこんでも、知らんふりでみそ汁よそってあげることよ。相手のげっぷをきいて、胃の調子でも悪いのかって気を配ることだよ。お高くとまってるあんたにゃ、むりなこったろうよ」

屋根に一家言ある星ばあの台詞
「あのこンちはまぁいいわよ。上等の和瓦だし、雨どいも軒のたわみもきれいに手入れされとる。地味でも手をかけた屋根の下に育った子は、どんなに新しい格好しようともそれなりにきちんとしてるもんだよ。屋根に守られてるんさ、どんな家も人間も」
あのことは亨くんのこと。