本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ピスタチオ/梨木香歩

主人公は棚というペンネームを持つ40才ほどと思しき女性ライターである(ペンネームを考えているときに、ふいに画家ターナーから思いついたペンネーム)。

棚は自然と深く同調していて、ややスピリチュアルに傾倒している感があり、自分のみの周りに起きる事象をすべて自然との関わりにおいて考察するような癖がある(低気圧の接近を片頭痛で知ることが好きだったり)。

そして、野生に触れていたくて飼い始めた犬の不調に、CTで検査したり手術を受けたりすることは不自然ではないかと妙な感慨を持ったりする。大学の動物病院での扱いの冷たさとか、恋人との関係とか、不可解な感情の動きをすべて何かになぞらえて説明しなければ気が済まないようで、どうもそこが鬱陶しい。

様々な偶然(あるいは必然)からウガンダの呪術医探訪の旅をすることになった棚だが、このあたりではアフリカの精霊信仰について詳細に語られていて、俄然ファンジーっぽくなるかと思えばそうでもなく、でもやっぱり超自然的な存在が棚を導いているような感じもある。「家守奇譚」のように河童や死んだ友人が当たり前のように存在している世界ならば不自然さも魅力のうちだが、棚本人が超自然を頭から信じている訳ではなく、どうも不調和な感じがする。

作中小説として棚による「ピスタチオ」という掌編小説が巻末に現れるが、人と鳥と世界の関わりを描き、抒情的かつ余韻のあるファンタジーとなっている。捨て子の男の子が鳥検番となり、世界を滅亡から救うというもので、日本には鳥は死者の生まれ変わりであるという伝承があったが、本作では人と鳥が元々一体の物であったように描かれている。あまりにも読後感がよいので、この作中作のみだけで良かったのではないかと思わせた(笑)。