本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

千年、働いてきました −老舗企業大国ニッポン/野村進

老舗企業について採り上げたNHKの番組を見たことがあるが、日本には創業から百年以上続く会社が多いらしい。その伝統と進化について訪ね歩いたルポルタージュである。世界最古の企業とされているのは奈良の宮大工建築会社・金剛組で567年創業とか。

著者が採り上げているのは、家業の伝統を引き継ぎながら時代に合わせて変化し、現代にその技術を生かしているような企業である。携帯電話の内部に様々な老舗企業の金属加工技術が使われているとか(♪純金積み立てコツコツの会社もある)、歴史のある銅山企業が一時業績不良に陥りながら、不純物の多い銅鉱石から銅を精錬してきた技術を生かし、廃棄された携帯電話からレアメタルを取り出すとか、醸造業のノウハウを生かして化粧品に進出した日本型バイオ企業とか、その内容は実に興味深い。

金と血縁しか信用しない華僑に対し、製造業の技術を大事にして連綿と続いてきた日本型の経済活動を「職人のアジア」と著者は定義する。華僑の方は「商人のアジア」としているが、他のアジア諸国に百年以上続く老舗は少ないそうだ。まことにものづくり日本だなぁと思う。老舗企業には婿養子が店を大きくした事例が多いらしく、実子の出来が悪ければ婿を取っても家の存続を大事にしたあたりがしたたかで面白い。

トレハロースの林原(元は水飴屋である由)も採り上げて賞賛しているが、林原は本書を読了した頃に経営破綻してしまった(なかなか面白い企業のようだったが)。出版されてから三年の間には色々あるものだ。