本・花・鳥(ほん・か・どり)

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蝉時雨のやむ頃 海街Diary1/吉田秋生 

高校生の頃から数年間、別コミ別冊少女コミック及び派生誌)に掲載される吉田秋生の作品を愛読していた。「カリフォルニア物語」「河よりも長くゆるやかに」「夢見る頃を過ぎても」など、ナイーブでコミカルでバカバカしくてセンチメンタルでミステリアスで、大変に楽しんだものだが、久々に読む吉田作品である本書では絵柄の変化に大変に驚いた。以前の吉田作品の主人公は切れ長の目の人物が多くて、ハードボイルド風の内容と相まって別コミ連載作品とは思われなかったものだが、本作では黒目がやたらと大きくて、いかにも少女漫画風なのでびっくり。ただ、感傷的・抒情的なストーリーにギャグを絡めた作風は変わっておらず、いかにもの世界が楽しめる。

鎌倉の古い家に住む三姉妹(しっかり者で厳しい長女・幸、大酒飲みでイケイケの次女・佳子、スポーツ馬鹿の三女・千佳)と、後から加わる腹違いの妹の物語を、少しずつ視点を変えながら語っている。第一話では、家族を捨てて女性と出て行った父親の訃報から物語が始まる。葬儀に赴いた三姉妹の前に現れた末の妹は、頼りない義理の家族の代わりに闘病中の父を支えてきたしっかり者で、子供らしさを奪われた子供の悲しさを幸が指摘しているが、会ったばかりの姉たちの前で号泣するシーンのなんと哀切で美しいことよ。吉田秋生の本領発揮という感じがする。この後どんな風に展開していくか楽しみだ。

鎌倉は地元に近いので、かまくらカスターとか弁天橋とかなじみのものが登場するのも楽しいし、少しミステリアスなエピソードが鎌倉という土地柄によく似合っているように思う。