本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

マイ・ホームタウン/熊谷達也

熊谷達也の面白さを知ってしまったので少しずつ読み進めている。直木賞受賞の際、書評家によるレビューが今イチの扱いだったのですっかり興味をなくしていたが、東北の民俗学をベースにした小説群は読んでみたら存外に面白いではないか。

本作は、著者が小学校時代を過ごした宮城県登米町らしき田舎町を舞台に、自然の中での悪ガキたちのわんぱくぶりを描いた少年小説だが、座敷童子・天狗・神隠し・雪女などがモチーフになっているところがいかにも著者らしい。

ちなみに、登米町は「とよままち」であるが、登米市は「とめし」。現在は市町村合併登米市登米町(とめしとよままち)という紛らわしい地名になってしまっている(笑)。

閑話休題、小利口で適当に悪ガキの主人公、腕っ節が強くて脳天気でマイペースな稔、太っちょで弱虫の巌夫と、いかにも少年小説らしい三人組の遊びや自然の雰囲気にはノスタルジーと切なさがあって、パターン的ではあるがぐっと引き込まれる。同じものを共有しているわけではないのに懐かしさを追体験させられるのだ。

「ベッドの下の怪物」的も物語もあって、故のない恐怖に興奮するのが子供というものかもしれない。物語の冒頭と末尾に大人になってからのエピソードを配し、過去と現在をオーバーラップさせているのも効果的。

謎の美少女転校生に雪女をからめた一篇は「風の又三郎宮沢賢治」の影響を思わせ、なかなか切ない初恋話になっている。「せづねぇのっしゃ」と片言の宮城方言(自分は宮城と静岡のハーフなので宮城方言には馴染みがある)で感想を言ってみたくなった。