丸の内にある東京中央郵便局の再開発に総務大臣が抗議していた件は、保存部分を多くすることで決着したようだ。
東京駅周辺の歴史あるビルの再開発で、古い建物の基部だけ残して超高層ビルを据え付けたデザインがあるが、あれは墓石のようで醜悪きわまりないと思う。中央郵便局もこの運命を辿りそうだ。
残すならすべて残す、壊すならすべて壊して最新デザインの高層ビルを建てればよいと思うのだが、妙な言い訳(部分保存)を付加した建築がまかり通っている。数日前の新聞でも、古い部分を残すことをアリバイにしているとあったが、まさにその通りだ。
価値のある建築を残すのは重要なことだ。古来から続く寺院を再開発させろという馬鹿者はあるまい。ただ、それが一等地にあるならば経済効率を無視することになるし、「思い出を壊すな」ということになると個人的な事情じゃないかとも思うのである。それならば身銭を切ったらどうだと言うのは横暴だろうか。
- 作者: 森まゆみ
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/10/22
- メディア: 新書
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
作家・エッセイストの森まゆみは数々の近代建築の保存に携わってきた経緯を「東京遺産」という著書で記している。保存の意義も分かるし、美しい建物が残るのも結構なのだが、それが行きすぎると住民エゴのようになりかねないと思う。
「東京遺産」の事例で、旧岩崎邸庭園がある。三菱の岩崎邸が司法修習所となり、その修習所が移転した空き地をゴミ処理場にしようとした計画を変更させたものだが、これなどはまぁ意義があろう。ただ、どうしてこの事例に意義があるのかと問われれば明確には答えられそうもないが、損をする人がいなかったからだろうか?
辰野金吾デザインの東京駅を始め、法務省旧本館、東京国立近代美術館工芸館などは赤煉瓦の建築が美しいが、どんどん再開発されている昨今、墓石ビルになっていない近代建築はどれほど残っているのだろうか。見ておくなら今のうちかな、と思う。
日比谷のあたりは、皇居を覗き込めてはいけないという不文律があった時代の建物なので、ビルの高さが揃っていてまだ幾らか町並みが整っていたが、数年前のことなので、今も残っているか疑わしい。建築は、ビル単体ではなく、ランドスケープデザインというのも考えて欲しいものである。
因みに東京駅も取り壊し再開発計画があったのを保存に変更された経緯が「東京遺産」に出てくる。駅舎を残したいのも分かるし、老朽化や安全性(と経済性もあるだろう)を訴えるJRの言い分も真っ当に思える。やっぱり保存問題は難しい。