室町幕府下、武士が各地の荘園を横領し始めいる物騒な時代に、聡明で人格も優れているが、経験が少なく頼りない代官が奮闘する様を描いた時代リーガルフィクションという感じだろうか。
京の大寺の若い僧侶清佑が代官として荘園に派遣される。徴税と司法が主な任務である清佑は、村人には慈悲を持って接しなければならないが、時にはたくましく小ずるい連中と対峙しなければならず、清佑の度量が試されることになる。
この作家は中世の庶民を描くのが得意で、本作でもその特色が遺憾なく発揮されている。生活苦から破滅しかねない農民の悲哀や、中世の裁判沙汰、ミステリー的な興味、盗みによって打ち首になった父を持つ小娘おきぬのしたたかさなど、多彩な物語で読ませる。
ただ、再読したいかというと否である。この作家の作品は、再読したいと思わせるような感動は薄く、あぁ面白かったとページを閉じたらそれでおしまいみたいな作品が多いが、それも娯楽作家の勲章かもしれない。