本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

お江戸風流さんぽ道/杉浦日向子

お江戸風流さんぽ道 (小学館文庫)


杉浦女史が江戸の生活やファッションや食を語った「ごくらく江戸暮らし」と、テレビ版組の講義録「ぶらり江戸学」を一冊にまとめたもの。江戸の楽しさ、面白さが興味深く綴られている。

・枯野見、氷鉢見(凍った池を眺めて楽しむ)、杉聴き(杉の伐り出しの音を聴いて楽しむ)など、風流なのか酔狂なのか分からないような行楽

・二両という値段に、大店は見向きもしないものの、庶民が飛びつく初鰹

・その日暮らしのフリーターのような江戸庶民

・長屋は寝る場所であり、町全体を己の居住場所にしていた知恵

・庶民がスポンサーになる花火

・モノトーンの中にキメ色が映える江戸ファッション

・すね毛やビキニラインを気にした若者(男)たち(笑)

・隠居してからが本当の生活で、老人が敬われ、若者にとっては人生の師であったこと

・互助の精神で豊かな者が貧しい者の面倒を見たこと

・災害の後、小さな善行を探し出しては無闇に顕彰した奉行所(ご褒美は微々たるものですが、その精神が嬉しいじゃありませんか(笑))

・後生願いというボランティア精神

・「御飯」とは朝一番の炊きたて飯であり、夜は防火のために火を落とし、冷飯を湯漬けにして食べていたこと

・お手軽なファーストフードであったにぎり寿司

・元来は輪切りに粗塩をふって焼いただけだったうなぎの蒲焼き(肉体労働者のスタミナ源だった)

・「宵越しの金は持たねぇ」とうそぶくのは、それだけの金がなかったこともあるが、大火で焼けてしまうおそれもあるから、ため込まずに使ってしまおうという意思の表れだったこと

・蕎麦は食事ではなく嗜好品だったこと

・屋台で長っちりは野暮だったこと

・物価が高かったので、買った物を最後まで使い切ったこと

・道は公共スペースなので、走ったり立ち話をしたり荷物を放置したりしてはならず、基本的に歩くだけであったこと

・故に大八車の使用には許可が必要だったこと

・水路は物資輸送用だったこと

・災害の際には細かな情報を採取してはまた市民に口頭で説明し、無闇に不安にならないような措置を執った危機管理システム

・(理想的な)ゆとり教育を地で行くような寺子屋制度(あやまり役という子供がいるのが笑える)

・礼だけはきちんとしつけたこと

・粋は息であり、吸ったものを吐き出して吐き出して、最後に残ったところに一つつけるものだったこと

・恋愛や結婚は女性優位で、間男も頻繁だったこと、

・「恋」を突き詰めていくと「色」になり、本気一歩手前の恋愛が粋だったこと


などなど、江戸の信条の面白いこと楽しいこと(笑)。

ただ、この裏には、身売りや下等な遊女、寺請制度、身分制度など、人権に関わる問題もあったと思われ、良いことばかりではなかったとも思う。江戸をユートピアとして描いているが、事実の良い面ばかりを協調しているとも思われるし、一種のファンタジーでもあろう。それでも、限られた空間や身分の中で楽しみをやゆとりを見出してきた遊び心が面白く、また、そういう江戸を体感できる好エッセイである。