本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ただマイヨ・ジョーヌのためでなく/ランス・アームストロング

ツール・ド・フランスhttp://ja.wikipedia.org/wiki/ツール・ド・フランス)で未踏の7年連続総合優勝の偉業を成し遂げたランス・アームストロングの自伝であり、闘病記であり、ツール・ド・フランス挑戦の記録である(クレジットの著者名にはLance Armstrong wiht Sally Jenkinsとあるので、聞き書きなのかもしれない)。

因みにマイヨ・ジョーヌとは、ツール・ド・フランスの競技中に総合1位の選手がまとう黄色のジャージである。原題がIt's Not About the Bike(自転車に関するものではない)なので、ツール・ド・フランスのことを書いたものではないことを意訳したのだろうが、どうも原題からくらべて情緒的過ぎるような・・・(笑)。

シングルマザーである母が17歳の時に生まれたランスは、あまり恵まれた環境にはなかったようだが、母の愛情はたっぷりとあり、寄り添うように成長してきたようだ。常に母親への賛美が羅列されていて、ややマザコンかとも思える。

恵まれた体力に物を言わせてトライアスロンで賞金稼ぎをするようになり、自転車競技の道へ進むが、パワーで押しまくるだけの自信過剰な若造であり(このあたり、テニスのマッケンローを思わせた)、高等な戦術や駆け引きが重要な自転車競技の世界では異端の存在だったようだ。

世界選手権で優勝するなど、徐々にステップアップして行った矢先、21歳で癌を発病。睾丸から肺、脳へ転移しており、生存率20%以下と言われながら、手術とのその後の過酷な化学療法に耐え抜く。そして厳しいトレーニングの末のツール・ド・フランス総合優勝への過程がスリリングに綴られている。

全体の筆致が自己憐憫と自己陶酔になっており、筋肉賛美の自意識過剰男という感じがしないでもない。癌の発表以後に契約を打ち切ってきたチームを批判的に述懐しているところなどは、そんなの当たり前じゃないかと思うのだが、自転車競技の描写はやはり迫力があって読み応え十分だ。スポーツ競技を描いた物は、読者がその競技を行っているかのように錯覚させるかどうかがポイントだと思うのだが、自転車のスピードと駆け引きを堪能させてくれた。

アームストロングは、癌になったことが自分にとってはプラスだったとしており、確かに精神的に成長するなど、利点はあったのかもしれないが、驚異的な体力で生還できたからこその弁であり、あからさまな自己肯定には鼻白む。俳優のマイケル・J・フォックスも著書「ラッキー・マン」で、パーキンソン病になって自分の人生を見つめ直せてラッキーだったと書いているが、それは二人とも無事に生きていられるからだろう。

ただ、この二人ともに基金を設立して研究援助を行っているようだが、社会貢献活動はアメリカのノブレス・オブリージュhttp://ja.wikipedia.org/wiki/ノブレス・オブリージュ)という感があり、これは日本人も見習うべきだと思う。

臆面のない自己賛美の書ではあるが、癌闘病の凄まじさと自転車レースの面白さと、二つながらに迫力のある描写が続き、優れたノンフィクションだった。



【付 記】この本を読んだときは感じ入ったんだけど・・・。