本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

美晴さんランナウェイ/山本幸久

父親の年の離れた妹である若い叔母を、姪っ子世宇子の視点から描いたユーモラスな家族小説である。

無軌道で非常識な美晴さんだが、一本気でもあり、家族からやや白眼視されつつ愛されてもいる。面倒なことから逃げる(本人によれば追いかけている)癖があり、それがランナウェイとういタイトルなのだが、世宇子の祖母(美晴さんの母親)が亡くなった時、葬儀の席からいきなり消え失せる理由もなかなかにしみじみとさせる。母親の思い出を語る美晴さんの悲しみが見えて何とも切ない。

また、世宇子の叔父は、結婚に際して妻の実家から猛反対された経緯があるが、小学生の美晴さんが実家の門前で「あたしの兄のどこに文句があるんだ」とがなりまくった、などというエピソードもある。そのエピソードを披露したのは世宇子の父親だが、とくとくとして語っており、みんな美晴さんを愛しているのだ。

世宇子の弟の翔はおっとりと優しい男の子だが、心霊・超能力・超古代文明などを採り上げる月刊モー(笑)を愛読しており、これが家族の悩みの種でもある。祖母と交信するべく通販で「イタコイラズ」を購入したエピソードも大変笑わせ、しんみりさせてくれた。

連作内のどの短編も、ユーモラスで切なくて少しだけ人間の嫌らしさが出ていて良く出来ているが、欠点は読み易すぎることか。良く出来たショートストーリーをあっという間に読まされている感じなのだ。もう少しみっちり書き込んでも良かったのではないかと思う。