「アマゾンドットコムの光と影」改題。
かつて物流業界紙の記者だった著者が、書籍ネット通販大手アマゾンの物流センターにアルバイトして潜り込み、アマゾンの急成長の秘密を探ったルポルタージュ。
アマゾンは秘密主義の会社だそうで、取材のガードは固く、公開されている情報からは読みとれない内情を探り出そうとしていてスリリングだ。なぜ24時間以内に発送可能なのか、なぜ1500円以上は送料無料なのか、と言うような疑問の答えを見つけようとしている。
日本の出版流通は取次が大きな権力を握っており、大出版社、大書店に向けてのサービスを第一にしていて、末端の読者は二の次だ、という話を以前に読んだことがある。小書店の品揃えも取次の独断で決められていることがあり、ベストセラーを大量に置きたくても回して貰えないという話も聞いた。
その点、アマゾンのサービスはとにかく顧客本位と言うことだそうだ。ITを駆使して顧客の傾向を把握し、一人一人に読みたくなるような本を提案するというきめ細かいサービスを行い、それが売り上げ増につながっているのである。
1500円以上で送料無料というのも、それだけでは持ち出しになるが、大量に買う利用者がいればこそだという。常にぎりぎりでしか買わない自分などは、この恩恵に与っていることになる(笑)。
以上が「光」だとすれば「影」は物流センターの労働環境の劣悪さ。大手運輸企業が受託しているそうだが、低賃金で重労働というなかなか凄い職場だ。大量の在庫から注文の本を揃えるピッキングには1分に3冊というノルマがあり、注文票の本を揃えて終了の入力をすると「あなたのピッキングは今回1分間に○冊でした」と表示されるのだそうだ。さすがIT企業だが、ちょっと薄ら寒い。
アマゾンの社員、受託会社の正社員、アルバイト(インバウンド、アウトバウンド)、アルバイト(ピッキング)というヒエラルキーが成り立っていて、末端のアルバイトはいつでも取り替え可能な使い捨てとある。きめ細かいサービスはこういう環境の上に成り立っているというのが本書のテーマで、著者はアマゾンの顧客としてサービスの恩恵を享受しつつ、この環境は昨今の日本経済の典型だとして嫌悪している。
昨今、エンタメノンフ(エンターテインメントノンフィクション)という呼ばれ方があるが、本書はまさにそのような面白さに満ちたルポルタージュだった。
ところで、本書は通販書店のアマゾンに焦点を当てているのだが、自分はアマゾンではほとんど本を買わず、CDばかり漁っている。それも実店舗では入手できないような格安の輸入盤が主で、実に効率の悪い客だなぁとは思うが、他でも手に入るものはわざわざアマゾンで買う必要もないのだった。もっともこういうロングテール商品がネット通販を支えているという話もある(←自己弁護(笑))。
↓amazon.co.jpで扱っていました(笑)。