本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

鎮火報 Fires's out/日明 恩(たちもり めぐみ)

生意気な若き消防士を主人公とする青春ハードボイルド。この作家は制服組公務員を主役にするのが好きだなぁ。

父親が殉職した消防士である雄大は、ヒロイズムに陶酔して命を落とした父親を疎んでいるが、成り行きで、楽して得する公務員である消防士になり、激務に耐えながら日勤の事務方に異動する日を夢見ている(笑)。

不法滞在外国人の住むアパートが立て続けに火事になり、そこに不審な事情をかぎ取ったことから、やっぱり成り行きで放火犯罪を解明することになる。事件の顛末は不気味で悲しく、人命救助を生業とする消防士が命の重さに悩むあたり、社会性のあるテーマを上手くエンターティンメントに仕立てていると思う。

主人公の父親が交通事故現場で救助したことから縁が出来、現在は優秀すぎる消防士として煙ったい存在である先輩、不良仲間の親友、情報オタクで引きこもりで裕福でナイーブで乙女チックな友人「漆黒の王子」など、心に傷を持ちながら生きている雄大の周りの人々もそれぞれに個性的で切ない。

父親を奪った消防士という仕事を憎んでいた雄大だが、最終場面で劇的な人命救助をし、同じ班の隊員の思いやりを知る。このあたりは胸がすくような痛快さだ。良くできたエンターティンメントであり、反抗的な若者の成長小説でもある。

舞台が池袋や板橋周辺と言うこともあってなにか池袋ウェストゲートパーク的なものも感じられ、親本の読了時には、映像化に際してはやはり長瀬智也が適役という感じを持ったが、二十歳過ぎの反抗的な消防士を演じるにはさすがにちょっと薹が立ってしまった(笑)。