本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

虹色天気雨/大島真寿美

語り手市子の友人である奈津が、「夫が蒸発して探しに行くから二日ほど娘の美月を預かってくれ」と子供を置いていったために、市子とその周辺の友人たちは奇妙なシーズンを過ごすことになる。

やや生意気な子供に振り回されつつ暖かい視線を注ぐ大人たちは、かなり長い期間を友人として過ごしてきているが、その友情を確認するための小説だったという感じだろうか。我ながらよく分からない(笑)。

児童文学では、非常識な大人と妙に律儀だったりしっかり者だったりする子供という対比がよくあるが、ここに登場する美月は、母親の友人たちをちゃん付けで呼んではばからない、可愛くも憎たらしくもある小娘だ。

更に市子の友人は、ゲイのデザイン事務所社長とか、物書きとか、店舗ディスプレイ責任者とか、元モデルの専業主婦とか、あまり堅気ではない職業の大人たちである。

美月の運動会の観覧に出かける場面では、これらの怪しい大人たちが盛り上がっており、何とも楽しい場面になっている。カメラマンが異様に張り切って作り上げたアルバムとビデオを後になって主人公が見る場面は、子供と関わった秋の日の楽しさが一気によみがえり、作中の白眉の感。

脇キャラとして辻房恵という女が登場する。この仲間たちの一人がかつて結婚していた女性で「私を愛して」と全身で主張しまくっているようなところが嫌われるタイプであり、そこそこ自信のある男は「俺が守ってやる」と立候補しては敗退していく感じだが、この造形が非常に上手いと思う。同級生の元妻という辻房江と市子が、20年間もか細い縁でつながっているあたりも変にリアリティがあっておかしい。

思えば、バブル期のトレンディドラマはグループ交際がモチーフになっていたが、その連中が年を取り、多少は人生の労苦を噛みしめつつそれでも明るく健気に生きている、という感じの小説だと思う。