本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

応為坦坦録/山本昌代 

葛飾北斎の娘・お栄を主人公に、奇天烈な親子の日常を描いた時代小説。北斎及び「百日紅/杉浦日向子女史」ファンの長尾武之介さんに教えてもらったもので、見事に百日紅な感じだ。

父親を鉄蔵呼ばわりする破天荒な娘は、父親北斎からオーイとしか呼ばれないので「応為」という画号を用いている。無愛想でぶっきらぼうで気まぐれで、絵師の才はあるものの父親をなかなか越えられないでいるお栄だが、それで焦るでもなく、父親の代作をしながら日々を凌いでいる。

わじるし(笑い絵=春画)嫌いの北斎の代作に、新味を出そうとして兄弟子を吉原に連れて行ってコトを覗こうとしたり、彫り物に入れ込み、百文持って彫物師を訪れ竜の目玉だけ書いてもらったり、その奇行ぶりがとにかくおかしい。

北斎を贔屓にする老人との会話なども、本人たちは大まじめなのに妙におかしく、やや突き放したような作者の視点と共に、楽しいような寂しいような、不思議な印象を抱かせる。ユーモア時代小説を狙ったわけではなく、登場人物たちが奇天烈過ぎるのだろう。