本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

たば風/宇江佐真理 

このところ松前藩がらみの著作が多い著者だが、この短編集にも「蝦夷拾遺」という副題が付いている。

「たば風」
許嫁が中風に倒れたために他家へ嫁いだまなだが、藩内が二つに割れ、まなの夫が藩主側近であったことから危機にさらされることになる。夫は城に詰めており、反対派の監視を受けるまなは実家へ避難するよう言われてもいかんともしがたかったが、ここへ元許嫁がまなを助けに現れる。その後の行く立てが何とも切なく胸打つ好篇。

まなの母はお手が付いた女中上がりの妻女だが、実家を見事に切り盛りし、傲慢なまでに子供の幸せを管理しようとしている。命力豊かな独裁者で、この描き方が実に魅力的だった。


「恋文」
江戸勤番の松前藩士の妻になったみくは、夫の身勝手さ・強引さに愛想が尽きており、隠居後に松前に戻ろうとしている夫には付いていかず、別離しようと考えている。モーレツサラリーマン世代の熟年離婚の危機と言った感じで、それなりに良く書けているとは思うが、現代の世相を絡ませすぎてちょっとしらける。


以上、好印象とそうでないものを一編ずつ。