本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

東京公園/小路幸也

写真家志望の学生である主人公圭司は、公園を巡り、幸せそうな家族写真の撮影することをテーマにしているが、その過程で知り合ったエリート風のサラリーマン初島に、若く美しい妻の浮気が心配なので尾行して写真を撮って貰えないかと持ちかけられる。

そうして東京中の公園巡りをすることになった圭司であるが、対象の百合香さんは圭司に気づいている風でもあり、いつしか二人の間にはただならぬ雰囲気が流れ始める。ナイーブな圭司は写真の対象に入れ込みすぎるきらいがあり、何故分かっているのに百合香さんは怪しまないのか?という謎が生まれるのだった。

家族と故郷をモチーフにしたミステリーが得意な、いかにも作者らしい展開。圭司は子連れ同士の再婚の家庭で育っており、血の繋がらない家族との関係も暖かく描かれているが、そういう育ちもも家族写真に入れ込む要因になっている。東京に出てきている義姉咲実との関係はやや複雑で、幼なじみの富永(女)によれば、咲実は圭司を愛しているのだということになる。

「圭司くんを愛しているの。でも、それはダメなの。弟として出会ってしまった圭司くんを愛して一緒に人生を生きていくことはできない。だから、もう咲実さんはスパッとあきらめたと言うか、切り替えた。この先どんなことがあっても、圭司くんのことを弟として一生見守っていって、そして圭司くんではない他の人に出会って愛することを自分に課したの。もうそういう人が現れなかったら、圭司くんへの思いを胸に秘めたまま一人で生きていく」

「そうなんだからそうだと頷きなさい。そして圭司くんは咲実さんのその気持ちをしっかりと抱えて、そういう思いに感謝して生きていくの。生きなさい」と一方的に決めつける富永もそうとう風変わりだ(笑)。圭司とは、中学生の頃少しだけ付き合ったことがあり、その頃には繊細で可憐な女の子だったらしいが、強引でマイペースで、でも楽しい女性である。

そうして、みんなが圭司と百合香さんのことを心配しているうちに百合香さんの謎が明らかになっていく。幸福で、少し切なくて、やや楽園的で出来過ぎの感もある青春小説である。