本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

幸福ロケット/山本幸久

「笑う招き猫」「はなうた日和」等、軽妙でペーソスのあるユーモア小説が持ち味の著者だが、ポプラ社から出ているし、児童文学だろうか。

10才の山田香な子には、不満が三つあった。誕生日がクリスマス・イブであること、山田という軽い名字、両親が仲が良すぎて父親が会社を辞め母親の実家の仕事を手伝っていることである。この出だしからもうユーモラスで楽しい。父親はかつてエリートだったらしいし、小石川からお花茶屋への転居はやや都落ち感を思わせるが、後に父親が辞職した事情があきらかになる。

学校生活は順調で、本好きの子たちと仲良しグループを組んでいるが、このグループはほとんど登場しない。隣の席の小森くん(コーモリ)とはわりあい仲良しな関係だが、ここに割り込んできたのがお嬢様っぽいブリッコの町野さんである。香な子にコーモリへの橋渡しを頼むのだが、このキャラが秀逸。ブリッコのわりには我が強く、結構ひとが悪い。

塾帰りの電車でコーモリと一緒になった香な子は、彼の母親が重い病気で入院していて、父親もいないので健気に頑張っていることを知る。コーモリは快活で侠気もあり、なかなかいい男である。コーモリを家の夕食に呼ぶなど、徐々に親しくなった二人だが、どうしても町野さんに対する引け目があるあたりが可笑しい。

自分のことを冴えないと思っている香な子であるが、ひとに対する観察眼があり、適度にツッコミ体質でもある。頭がいいんだなぁと思わせる子だ。父親のことやコーモリのことや、なかなかに悩みの多い五年生だが、微笑ましいなぁ。

香な子をそっとフォローしてくれるのが担任の鎌倉先生である。元モデルで、校長先生がビビるほど厳しいのに、細やかな情もある、実にかっこいい先生だが、かっこよすぎの気もする。この先生に限らず、全体にカリカチュアライズされていて、ちびまる子ちゃんを思わせるのだ。リアリズム小説ではないのだから、それはそれで構わないのだが。

ラストシーンは香な子の誕生日である。訳あって香な子は走る走る。子供が一生懸命になっているシーンはそれだけで感動を呼ぶものだ。ラストの台詞が何とも切なくて微笑ましくて、素敵な物語だった。