本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

失踪日記/吾妻ひでお 

カルトな人気のあった漫画家が、仕事に行き詰まって二度のホームレス生活を送った日々を綴る実録マンガエッセイ。

プライドもなく拾い物をして生活していたかと思うと、手配師にガス工事の下請け会社に送り込まれ、いつの間にかその道のプロになったりしている(しかも親会社の広報紙にマンガを投稿したりするのだ(笑))。二度とも、警察に連行された際に捜索願が出ていたことから連れ戻されているが、この間の事情を、いつものややとぼけた筆致で描いていて、ファンの刑事からサインを求められたりするのも笑わせる。

駆け出し時代を振り返り、いかに意に染まない仕事をさせられていたかや、アル中になって入院した病院の実態など、ハードなことをコミカルに描き出すあたりがプロの技術か。思えば不条理なギャグマンガはこの人の十八番だったはずだ。

強制的に軍隊じみた生活をさせるアル中病棟、入院患者の中でリーダーになっているT木女史の、集会室でお祈りしている修道服姿の不可解さなど、世の中はやはり不条理だ(笑)。

ホームレス生活というのは、この世とあの世の境目のような、一種マージナルな領域であろう。そういう異界と不条理が実にマッチした傑作である。