本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

黄金旅風/飯嶋和一

鎖国前後の長崎で、長崎奉行の不正と戦う代官の活躍を描いた時代小説。

傲岸、強欲な貿易商である父親に疎まれた末、不肖者と呼ばれ、勘当同然に自堕落な生活をしていた末次平左衛門だが、実は視野の広い高潔な人柄で、商人としても優秀であることを一部の者たちだけが知っている。父平蔵が変死したことで無理矢理跡目を継がされると、私腹を肥やすことしか考えない長崎奉行の圧政に果敢に立ち向かっていく。

平左衛門が放蕩無頼な少年時代を共に送った内町火消組組頭平賀才介も痛快な男で、この二人の友情も読みどころだ。かつて二人が夢見た南の島への憧れは黄金蝶に象徴され、哀切な風情をもたらしている。

この作家は、徳川幕藩体制の確立で失われる自由を、学生運動や政治の季節の終焉とからめて書いている節があるが、今回も、貿易によって豊かさを保証されてきた長崎が鎖国によって直面する困難を、平左衛門がいかにして回避するかが描かれている。

南蛮人には阿り、唐人や高麗人には傲慢な日本人の姿や、御法を恣意に解釈する為政者への批判、既得権益に群がる幕閣の要人、西国大名の海外への野望、商業によって栄えた長崎の将来は不要な摩擦を起こさないことを主張するなど、現在の日本とリンクさせていることは間違いないだろう。その辺はちょっと興ざめだが、南蛮貿易キリシタン摘発の悪辣さ、汚職の証拠固めなどの描写もスリリングだし、自由を阻むもの、それと戦う明るい希望などを描くのが上手い作家だと思う。