本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

男に生まれて/荒俣宏

にんべんの八代目高津伊兵衛(入り婿で、やや短気でのぼせ上がりやすい質だが、義侠心厚く、家業に精出す気持ちの良い男)を主人公に、幕末の動乱を乗り切るために奮闘する日本橋商人達の心意気を描いた時代小説。

幕府の命運は尽きている、さりとて薩長には加担したくない日本橋商人たちは、江戸の主人公である自分たち庶民の暮らしを守るために日々奮闘する。この心意気が痛快だ。ただ、可哀想な子供のエピソードがあり、そこだけはちょっと痛々しい感じがある。

味方なのか敵なのか判然としない、三井越後屋の通い番頭が一筋縄ではいかず、脇役としていい味を出している。。

鰹節は薩摩・土佐あたりから長時間かけて江戸は運ばれる間にカビが生じ、水分が抜かれ旨味が凝縮して澄んだ味わいのだし汁が生まれたとか、それが野田の醤油と出会って蕎麦や天麩羅の江戸の味が生まれたとか、新しい知識を得ることも出来た。

長期保存が出来る鰹節には米同様相場があったとか、日本初の商品券であるかつおぶし切手を売り出したのもにんべんだったとか(小判の形をして、等価の銀を含んでいたそうである)、屋台の菓子売りから出世した榮太楼とか、明治帝のために長期保存が出来る味付け海苔を開発した山本海苔店とか、西川とか山本山とかも登場して、江戸の産業史としても面白い。