本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

輝く日の宮/丸谷才一    

源氏物語研究をテーマにした小説で、架空の巻が挿入されているというのが話題になった。平安風の雅な物語かと思っていたが、その架空の巻について推理していく、文学史ミステリーという感じだ。

冒頭、主人公(古典文学研究者)が中学生の時に書いたという、幻想的な美文調の小説があり、こういう感じで展開していくのかと思ったが、かなり実験的な小説である。

19世紀文学の研究者杉安佐子は、「芭蕉はなぜ東北へ旅立ったか」「春水=秋声の時間」等、画期的な学説で評価が高まっているが、あるシンポジウムで、源氏物語には「輝く日の宮」という失われた巻があるという持説を展開して、源氏物語研究者(陰険な女です(笑))と衝突し、却ってこの説を追究することになる。彼女の想像の中で紫式部藤原道長が動き出し、源氏物語創生の謎解きが始まるのである。

併せて杉安佐子の恋愛生活も語られるが、これはもう源氏物語になぞらえているんだろう。生臭くなりがちな話をさらりと描く筆致はさすがですが、知的で可愛くて適度に色気があって、という主人公は、いかにも類型的な「いい女」という感じがしなくもない。

「輝く日の宮の巻」も「芭蕉はなぜ東北へ旅立ったか」も「春水=秋声の時間論」も、作者丸谷才一の創造なのか、学術的な裏付けがあるのか分からないが、歴史的な好奇心を刺激され、文学史謎解きの旅を楽しめた。