本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

自転車少年記/竹内真

無鉄砲で腕白な昇平が4才で初めて自転車に乗れた日、急坂を駆け下りる恐怖と快感にさらされながら草太の家の庭にダイビングしたことから始まる少年・青春小説で、タイトルの通り、二人のそばには常に自転車があるのだった。

草太は昇平と対照的におとなしげな少年だが、芯には強いものを持っている。この二人の友情や恋や挫折や再生を描いて、しみじみと気持ちの良い小説だし、ハンドサイクルという車椅子に取り付ける自転車など、バリアフリーな話題があるのも今日的だ(この話題はもう一人の自転車少年の伸男と大いに関わるのだが、この一節も爽やか)。

競技自転車については無知なのだが、妙な駆け引きのあるポイントレースや追い抜きのトラック、チームワークで早さを目指すチームロードなど、作中のレース場面も面白い。ロングツーリングの場面も迫力があり、草太が八王子からひたすら西へ向かって走る場面など作中の白眉かと思う。

自転車に乗れた時、スピードと行動力を手に入れて子供の世界は一気に広がる。大人になるにつれてバイクになったり車になったりして徐々にモノグサになってくるものだが、たまらなく自転車に乗りたくなる小説だった。