本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

児童文学・ヤングアダルトノベル・少年少女小説

おれたちの青空/佐川光晴

「おれのおばさん」の続編であるが、ストレートな続きではなく、陽介の施設仲間である卓也を主人公にした中編、恵子おばさんが来し方を振り返る中編と、陽介の進学を短く描いた短編からなっている。陽介の良き友人である卓也は闊達に見えるが、その生い立ち…

おれのおばさん/佐川光晴

語り手の陽介は、難関の有名中学に通っていた、そこそこエリート家庭の息子である。しかし単身赴任中の父親が勤め先で金を横領し愛人に貢いでいたことが発覚、父親は逮捕され、家は売りに出され、母親が住み込みで働くことになったため、自分は母親と不仲の…

聖夜/佐藤多佳子 

教室と音楽がテーマの第二音楽室に連なるシリーズ。登場人物等につながりはない。 本作の主人公・鳴海一哉は狷介でへそ曲がりの高校三年である。善良な魂と絶対的な信仰を持つ牧師が父親であり、ミッションスクールで聖書研究会とオルガン部に所属して宗教行…

第二音楽室/佐藤多佳子

四篇の作品(短編2、中編1、長編1)で構成される、音楽と教室をテーマにした二分冊の前半(短編2と中編)で、主人公や年代の設定は重ならないが、クラス内のヒエラルキーの高くない子供が、周りの空気を読みつつ音楽に没頭する姿が活写されている。通底…

僕は、そして僕たちはどう生きるか/梨木香歩 

「空気を読む」「みんなと同じに」「大勢に逆らわない」など、とかく出る杭は打たれる日本の風潮をモチーフに少年少女の葛藤を描いたヤングアダルトノベル。主人公のコペル(もちろんあだ名)は、やや理屈っぽい、自然観察好きの14歳である。染織家の叔父(…

ぐるぐる猿と歌う鳥/加納朋子

文庫化にて再掲。 加納朋子が児童向けミステリー叢書「講談社ミステリーランド」に書き下ろしたミステリー風味の少年小説である。主人公の高見森(タカミシン)は無鉄砲でへそ曲がりな小学五年生だ。父親の転勤で北九州の社宅に引っ越し、地域の子供達と知り…

吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ごごろ/山本渚 

吉野北高校図書委員会、吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋に続く第三弾。三年生となり図書委員会の幹部から退いた川本かずらは、受験勉強に打ち込むべき時期に私論が決められず悩んでいる。学びたい大学があるのは県外、しかし仲間と離ればなれになるのは…

吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋/山本渚

吉野北高校図書委員会続編。温厚で人間の器量が大きく、委員達から信頼されている委員長の岸本一(ワンちゃんと呼ばれている))は、家では幼い弟妹の面倒も見るしっかり者だが、年齢なりに迷いや悩みもあり、進路のことで祖父と衝突、熱に浮かされた頭で図…

お縫い子テルミー/栗田有起 

「一針入魂 お縫い子テルミー」の名詞を持ち歩く、流しの仕立て屋テルミーの独白が楽しい中編小説。祖母・母・テルミーの三世代家族は常にどこかの家に居候し縫い物をすることでたくましく生きてきたが、テルミーは自分に頼りっぱなしの甘ったれな母親に嫌気…

吉野北高校図書委員会/山本渚

本好きであれば中高生の頃に図書委員を勤めた(勤めさせられた)例も多いと思うが、自分もそうなのでこのタイトルだけでぐっと来てしまった(笑)。ライトノベルの体裁だが、ナイーブな男女高校生を描く青春小説の佳作である。男女が交互に語り手を務めてお…

星の牧場/庄野英二

本好きのためのSNS本カフェhttp://heartgraffiti.sns.fc2.com/exec/読書会で選書されていた児童ファンタジー。自分ではおよそ手に取らないような本を教えて貰えるのが読書会のメリットだな。主人公のモミイチは愚直で善良な好青年である。親がいないため親切…

世界でいちばん長い写真/誉田哲也 

主人公の中学三年生内藤宏伸(ノロブー)が特殊なカメラと出会ってちょっと成長する姿を描いた青春小説。ノロブーは真面目でおとなしい中学生である。気弱で主体性がなくて引っ込み思案なところを馬鹿にされ、ややいじめられている感があり、快闊な幼なじみ…

製鉄天使/桜庭一樹

あらすじ 辺境の地、東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレ…

宇宙でいちばんあかるい屋根/野中ともそ 

本好きのためのSNS本カフェhttp://heartgraffiti.sns.fc2.com/の読書会の課題図書で知ったYA小説である。中学二年生のつばめは、母親は義母ながら幸せな家庭があり、両親共に愛しているが、幸福を演じているような窮屈さを感じ、学校生活やほのかな恋愛に…

かのこちゃんとマドレーヌ夫人/万城目学

かのこちゃんの友情物語と、かのこちゃんの家に飼われる猫マドレーヌ夫人を描いた猫ファンタジー。かのこちゃんは学齢になっても親指しゃぶりの癖の抜けないぼんやりした子だったが、マドレーヌ夫人に親指を噛まれ、「知恵が啓かれて」、「あれは何」「これ…

ドリトル先生航海記/ヒュー・ロフティング

シリーズの中で子供の頃から一番親しんで来た作品。数十年ぶりに読んでみたが、内容は結構忘れていないものだ。このシリーズではドリトル先生の助手を務めるトミー・スタビンズ少年が語り手になるものと、三人称で書かれるものがあるが、本作でトミー少年と…

秘密の花園/フランシス・ホジソン・バーネット

児童文学の名作であり、ガーデニングも関係している以上、今までに読んでこなかったのが不思議なのだが、とにかく初めて読んでみた。「忘れられた花園」というミステリーが本書を下敷きにしていると言うことで読んでみるべきと思ったのである。そして、コマ…

名探偵カッレとスパイ団/アストリッド・リンドグレーン 

カッレくんシリーズ第三弾。またも夏休みの輝かしい日々を過ごすことになったカッレ、アンデス、エーヴァ・ロッタの三人が、今度は謀略騒ぎに巻き込まれた幼児を助けるために奮闘する。バラ戦争のさなか、子供好きのエーヴァ・ロッタは、郊外の一軒家で見か…

カッレくんの冒険/アストリッド・リンドグレーン

カッレくんシリーズの第二弾。今度は本格的に殺人事件と関わることになる名探偵ブルムクヴィストである。仲良しの悪童たちが繰り広げるバラ戦争の課程でエーヴァ・ロッタが高利貸しを殺したと思われる犯人を目撃してしまう。それが新聞に掲載されてしまい、…

名探偵カッレくん/アストリッド・リンドグレーン 

子供の頃に親しんだ名作児童文学の読み直しモードに入っており、これも35年ぶりくらいの再読だろうか。今で言えばYA向けの讀物になるだろう。カッレ・ブルムクヴィストは食料品店の息子で、ホームズやポアロに憧れて日々探偵活動に明け暮れ町の治安を守って…

少年少女飛行倶楽部/加納朋子 

クラブ活動必修の中学校で、一年生の佐田海月(さだみづき=しっかり者で頼りになり、天然ボケの母親や友人に対してツッコミ体質)が、副部長に一目惚れした幼なじみの大森樹絵里(依存的で甘ったれなブリッ子)に頼まれて入部したのは変人ばかりの飛行クラ…

点子ちゃんとアントン/エーリヒ・ケストナー

このところケストナーモードに入っているので多分40年ぶりくらいに読んでみたが、大筋のところは忘れていなかった。金持ちのお嬢さんで活発で突飛で少したがが外れ気味の点子ちゃんと、貧しくても心は豊かで母親思いで賢くて勇気のあるアントンの友情と冒険…

エーミールと三人のふたご/エーリヒ・ケストナー 

エミールと探偵たちから二年後の物語。前作同様にちょっとした活劇を交えているが、14歳になったエーミール(訳者が違うので、主人公がエミールからエーミールになっている)が大人になることの悲しみを知り、少し成長することも大きなテーマである。愛する…

エミールと探偵たち/エーリヒ・ケストナー 

岩波少年文庫版(小松太郎訳)で、この児童文学の傑作を三十五ぶりくらいに再読してみたがやはり傑作だった。エミールは母と二人暮らしの実業学校生(12歳くらいか)で、母親をとても愛しており、責任感の強い優等生だ。ベルリンの祖母を訪ねるにあたって母…

飛ぶ教室/エーリヒ・ケストナー(池田香代子訳)

生涯の座右の書とも言える「飛ぶ教室/エーリヒ・ケストナー」の池田香代子訳岩波少年文庫版を読んでみた。講談社文庫版の「戦前の格調ある少年小説風」とも、光文社古典新訳文庫版の軽薄で甘ったれた現代風とも違い、昭和40年代に少年時代を送った者には非…

西の魔女が死んだ/梨木香歩 

中学一年の加納まいは、学校で仲間はずれにされ不登校となったことで、祖母の家に預けられる。祖母はイギリス人で、自然豊かな環境の家で草花やハーブを育て、ナチュラルな生活を送っている人だ(ターシャ・テューダーとかベニシアさんとかを思わせる)。そ…

狐笛のかなた/上橋菜穂子

守り人シリーズの著者による、中世あたりの日本を舞台にしたファンタジーだが、切ない恋愛小説であり、土地を巡る近親憎悪の物語であり、呪者同士のサイキックな戦いの物語であり、隷属させられた使い魔たちの自立の物語であり、実にさまざまな要素を含んで…

虚空の旅人/上橋菜穂子

守り人シリーズではあるが女用心棒バルサは登場せず、かつて父王に謀殺されるところをバルサに助けられたチャグムの旅の物語となっている。新ヨゴ皇国皇太子チャグムは、同盟国であるサンガル王国の新王即位の儀式に招かれ、星読博士ジュガと共にサンガルに…

香港の甘い豆腐

小学館文庫新刊にて再掲。ダラダラした女子高生・彩美を主人公にした、青春小説と言うよりはヤングアダルトノベルだろうか。シングルマザーの母親(及び祖父母)に育てられ、父親がいないことを何かと言い訳にしている彩美は、いつものように母に口答えした…

夢の守り人/上橋菜穂子

短槍使いの女用心棒バルサの活躍を描くファンタジー「守り人シリーズ」第三弾。異世界で数十年に一度咲く<花>は、ひとの<夢>を養分にして実を結ぶ。そして、この世に不満を抱いていたり、絶望していたりする者を、郷愁を呼び起こす歌で<夢>に誘うのだ…